日本ラグビーフットボール協会とWorld Rugbyの連携

 JRFUの一貫指導の考えはJRFUコーチングの指針と「World Rugbyの考えに沿っています。そのため、まず、共通言語として本ホームページ内にある、「JRFUコーチングの指針」と「World Rugby」のコンテンツを理解した上で、指導に励んでください。自分のプレーヤーとしての経験値からだけでなく、しっかりとプレーの原則やコーチングの原則を理解した上で、学んでいきましょう。もちろん、コーチングに唯一の正解はありません。だからこそ、皆さんが、より多く方々とオープンで有意義な対話をできるような「コーチのための学びの環境」を整備していきます。

 

一貫指導の共有化について

 一貫指導とは、全国いたるところで同じ指導することですか?これはコーチング部門がよく問われる質問です。とても大切なポイントなので、具体的な指導内容よりも、先に触れておきます。一貫指導の「共通化」をどのレベルまで求めるのかについてJRFUのスタンスを明らかにしたいと思います。

 例えば、他国をみてみましょう。ニュージーランドでは、一貫指導が歴史的に確立されており、小学生から全てのラグビープレーヤーがオールブラックスと同じラグビーをしているということがしばしば言われます。しかし、それは大きな誤解です。もちろん、オールブラックス(NZ代表)のプレーを真似しようという傾向が非常に強いことは否めませんが、どのプレーヤーも、どのチームも、同じ戦略や戦術をしているということではありません。ニュージーランドの一貫指導は、オールブラックス(NZ代表)になるために必要なスキルの指導を統一化しているだけです。

 よって、JRFUでも、戦略や戦術の決定は、カテゴリー別の監督・コーチに委ねられることを前提として、「プレーの原則」と「スキル」の共通化を図っていきたいと思っています。どのカテゴリーでプレーをしようと、「プレーの原則」の中で、パスやキック、タックルが、いかなるプレッシャーの中でも的確な状況判断ができるプレーヤーを育てていくことが一貫指導の目的と言えます。

パフォーマンス構造の理解

 あらゆるスポーツでも同様、プレーヤーのパフォーマンスを構造的に理解することが大切です。JRFUでは、以下のような4つの種類に、定義分けしました。

 特に、テクニックにおいて大切なことは、単にコーチの経験値に基づいた感覚的なものではなく、より科学的に、且つ論理的に「正しい」テクニックを修得・指導しなければなりません。一方で、スキルにおいては「正しい」というよりは、いかなる状況でも安定的に「発揮できる」「発揮できない」といった基準が当てはまります。

 定期的に開催している日本代表カテゴリーミーティングで過去にエディー・ジョーンズ元ヘッドコーチより指摘されたのは、日本の多くの練習は、スキルよりも、テクニックに意識が偏りがちで、練習でのパフォーマンスが、試合になると格段に精度が落ちるという現象です。日本は、伝統的に「型」の文化の影響が強いこともひとつの要因と言えるでしょう。

 その他に、コーチは、プレーヤーのレベルやチーム戦略に関わらず、自分が過去指導された、もしくは自身が修得したテクニックをそのままコーチングしがちです。更に、認識すべきことは、一つのスキルは、複数の細かいテクニックによって構成されているにも関わらず、コーチは自身がよく知っている特定のテクニックが全てだと信じているため、議論がテクニックに終始してしまうことが少なくないということです。コーチは、目的とする「スキル」修得に対して、どの「テクニック」の指導がもっとも適しているかを分析し、選択しなければならないのです。ラグビーにかかわらず、日本スポーツのコーチングにおける一つの課題は、試合で発揮されるべき状況判断を伴った具体的なスキルのゴールを忘れて指導を実施していることでしょう。

 

理想のトレーニング構造

◆パフォーマンス構造の理解とスキルトレーニングの重要性の理解

 まずは、パフォーマンスを構造的に分解し、それに基づいたコーチングとトレーニングのあり方について言及します。年代別に、テクニック、スキル、戦略・戦術にどのくらいの比重をおくべきか、という問に対して、理想のトレーニングの構造を示しました。右の図のように、高校生年代(ユース世代)では、テクニックが全体の30%を占めることが理想的で、年齢やレベルが上がるに連れて、その割合が減っていき、逆に、チームの領域である戦略・戦術の部分が増えていきます。中学生以下については、チームの戦略・戦術の構築よりも、さらに多くの時間を個人を成長させるため使うことが望まれます。また、常に、どの世代でも40%を保たないといけないのは、スキルの部分であり、一度、修得してもトレーニングし続けなければ、そのスキルが発揮できないという考えにもとづいています。

 一方で、日本のラグビー指導現場を見た場合、多くはテクニックに重点が置かれ、敵のない動作的な練習やチーム合わせのような練習が頻繁に行なわれているのが現状であり、リアルな試合状況に近いプレッシャーの中でのスキルのトレーニングが少ないように感じます。右の図のように「現在の全体的な傾向(概算)」でも、テクニックが40%、スキルが20%、戦略・戦術が40%、が一般的と言えるでしょう。これからの日本のラグビーの指導では、テクニックおよび戦略・戦術の中心のトレーニング構造から、よりスキルベースのトレーニング構造へとシフトしていくことが求められます。

 

◆コーチングの哲学と手法(明示的・暗示的/ 定型・非定型)

 こうした現状を変えるには、単にトレーニングの割合を変えるだけでは効果がでません。トレーニングの割合と共に、コーチング哲学や手法の違いにも意識を払わなければなりません。コーチングの哲学として、プレーヤーに対して、直接的にメッセージやポイントを指導する「明示的」なやり方と間接的に伝える「暗示的」なやり方の2つがあるとすれば、どのスタンスでプレーヤーと向き合うかというのが重要になってきます。例えば、プレーヤーAはより明示的で、プレーヤーBやプレーヤーCはより暗示的な方が効果的だということをコーチは理解しておかなければなりません。また、自分が受け持つチームDは、全体として、やや明示的なスタンスで指導するというプランも必要になってきます。現状の日本の多くの指導は、やや明示的な傾向が強いように思われます。

 今後、自ら考え、成長し続けるプレーヤーを育てるためには、コーチがやや暗示的なスタンスに立ち、バランスを保つことが必要です。この議論は、「明示的、暗示的、どちらがいいか?」という安易なものではなく、プレーヤーの資質、状況に応じて、バランスをとりながら、変えていくことが大切なのです。

 また、トレーニングの様式としては、大きく分けて「定形」と「非定形」があります。動作・ドリル的なトレーニングは「定形」に近く、試合やゲーム的なトレーニングは「非定形」と言われます。それぞれは、トレーニング効果としての特徴をもっており、「定形」は、テクニック・スキルの修得には比較的短時間で可能ですが、一方で、比較的短時間でそのテクニック・スキルを失いやすい特徴があります。逆に、「非定形」は、テクニック・スキルの修得には比較的長時間かかるが、一方で、失うのも比較的長時間かかります。こうした特徴を踏まえて指導すれば、より効果は上がるでしょう。しかし、現状の日本の多くの指導は、やや「定形」のトレーニングが多いように思われます。今後、プレッシャーの中でも的確に状況判断をできるプレーヤーを排出するためにも、「非定形」のトレーニング形態を増やしていくことが求められます。問題は、「定形」指導が比較的容易ですが、「非定形」は指導が比較的困難なことです。そのため、今後、日本ラグビー協会としても「非定形」のコーチング手法のポイントを整理していく予定です。

 

◆スキル修得の5つの段階(知識・意識・無意識)

 更に、コーチは、「プレーヤーのスキルが、今どの段階にあるのか?」を常に、きちんと評価できなければなりません。ここでは、プレーヤーが行うパフォーマンスを「知識」「意識」「無意識」の3つレベルにわけました。「知識レベル」では、無知段階(段階0)と有知(段階1)にわかれ、獲得するべき必要なスキルの存在自体や正しいテクニック自体を知っているかが基準となります。

 次に、「意識レベル」では、意識不可能(段階2)、意識可能(段階3)にわかれ、必要とされるスキルや正しいテクニックを既に知っており、意識してプレーすれば可能なのか、意識してもまだ充分にできない段階かが基準となります。意識してできるようになれば(段階3)、最終レベルとして、無意識レベルがあり、無意識不可能(段階4)、無意識可能(段階5)にわかれます。ここでは、そのスキルを無意識な状態でも、安定的なパフォーマンスを発揮できるか否かが基準となります。

  当然、コーチングの目的は、プレーヤーがさまざまなスキルを「無意識」でできるようにさせることです。練習によっては、一つ一つのスキルを意識しながらプレーすることが可能ですが、試合ではさまざまな選択肢の中でプレーしなければなりません。だからこそ、まず、修得するべき必要なスキルの存在自体や正しいテクニック自体を理解させ、次に、意識的にできるように指導し、最終的に無意識のレベルで、安定的なパフォーマンスを発揮できるプレーヤーを育てて下さい。

 

◆安定したパフォーマンスを発揮する為の練習強度について

 最後に、S&C(ストレングス&コンディショニング)の観点から、練習強度の重要性について述べたいと思います。フィジカル的な要素が大きいラグビーというスポーツでは、必然的に、試合中の強度(例:トップスピードの割合、フルコンタクトの回数など)が高くなります。よって、勝利を確実なものにするには、どんな強度下における試合でも無意識レベルで安定的なパフォーマンスを発揮できることが必須です。そのためには、日々のトレーニングでは、試合以上の強度でスキルを鍛錬することが求められます。

 その前提としては、実際の試合の強度を正確に理解しておかなければなりません。例えば、GPSを使ってプレーヤーのトップスピード(5m/秒)の平均割合を計測します。仮に、トップスピードの割合が、試合全体の15%だった場合は、そのチームは15%以上の割合で練習強度を設定しなければなりません。逆に、試合の強度よりも低い強度(10%、5%)で長く練習してしまうと、身体や気持ちがその強度になれてしまい、高強度な試合ではより多くの負荷を感じることになります。そのため、これからのトレーニングは、強度を最大限に高めるという視点が必要であり、トレーニングの量よりも質を高めることが重要になります。

 また、強度を高める際にも、単純に物理的(ハード)な負荷をかけるのではなく、ファン的な要素や、ゲーム性を盛り込んで、プレーヤーの練習へのモチベーションを高めていくことも、とても重要になります。

 現在の日本代表の練習では、それらのポイントが踏まえられており、プレーヤーたちの集中力が高いレベルで持続できています。それにより、プレーヤーたちが常にオールアウトする(全力を尽くす)ことを習慣化させています。日本のラグビー界全体において、これらのアプローチは必須であり、それが浸透すれば、試合においても、練習においても、常に最初からオールアウトできる(全力を尽くす)プレーヤーを増やすことができるでしょう。